日本経済新聞が、ソフトバンクの子会社「ヤフー」と、無料通信アプリを手がける「LINE」が経営統合するとの報道をしました。
※「ヤフー」は、2019年10月1日より、社名を「Zホールディングス」に社名を変更している。これまでのヤフー事業は、新会社の「ヤフー株式会社」が運営している。
現時点で、両社より公式見解が発表されているわけではありませんが、経営統合がされることは間違いないようです。
- 経営体制は持株会社傘下か
- PayPay、メルカリ、LINEはもともと他業種であった
- メルカリが決済事業に参入して、プラットフォーム戦争突入へ
- 3社のサービスのコモディティ化を予想していた
- 全面戦争手前で2社間で同盟
- 困ったのはメルカリ
- メルカリの手腕が試される時が来た
経営体制は持株会社傘下か
日経新聞の報道によると、ヤフー(Zホールディングス)の株式を4割超握るソフトバンクとLINEの株式を7割超保有する韓国ネイバーが、50%ずつ出資する共同出資会社を設立し、ZHD株の7割程度保有する親会社になる模様。そして、ZHDの傘下に100%子会社の「ヤフー」と「LINE」が入る統合案が最有力となっているようです。
私が気になったのはソフトバンク傘下PayPayと、LINE、メルカリとの関係です。当ブログでは、プラットフォームビジネスについて、考察してきていますので、国内の巨大プラットフォーマーである3社の関係を時系列に従いつつ整理していきたいと思います。
【追記】2019/11/14
ヤフーの持株会社であるZホールディングス、LINE、Zホールディングスの親会社であるソフトバンクの3社は、2019年11月14日、ヤフーとLINEが経営統合に向け交渉中である事実を認める声明を出しました。
【追記】2019/11/18
「Zホールディングス」と「LINE」は18日朝、取締役らによる会合を経て経営統合に基本合意することを正式決定した旨を公表しました。これにより「Zホールディングス」を傘下にもつ「ソフトバンク」と「LINE」を傘下に持つ「ネイバー」が50%ずつ出資して新会社を設立することになります。経営統合の報道からわずか数日で経営統合が現実のものになりました。
PayPay、メルカリ、LINEはもともと他業種であった
この三会社は、メイン事業がそれぞれ違いました。(ソフトバンク、ヤフー傘下の)PayPayは、決済事業、メルカリは、フリマアプリ、Lineは、無料通信アプリをメインにサービスを提供していました。そのため、3会社は、いずれも消費者に対してプラットフォームを提供している点で共通してはいるものの、熾烈なプラットフォーム戦争状態にはありませでんした。3社が展開しているプラットフォームは、隣接してはいるものの直接競合することはなかったからです。
>>>プラットフォームとは?今更聞けない定義から具体例まで徹底解説 – Nomad Venture Library
メルカリが決済事業に参入して、プラットフォーム戦争突入へ
しかし、この状態は長くは続きませんでした。フリマアプリのネットワークを手中に収めたメルカリが、決済事業に参入してきたからです。メルペイの登場です。プラットフォームビジネスでは、競合するプラットフォームを有するプラットフォーマー間で熾烈な競争が行われるという特徴があります。「プラットフォーム資本主義」や「勝者総取り方式」などと呼ばれてたりしています(詳しくは『プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか』を参照ください)。そして、実際にも、プラットフォーマー間で熾烈な顧客獲得競争が繰り広げられました。2019年は、バラマキキャンペーンがほぼ途切れることなく行われていました。消費者としては、かなり有難い限りです。とはいえ、熾烈な競争をしていたのは、メルカリとPayPayの2社。この2社は、テレビCMで人気タレントを擁して、大々的にピーアールをしていました。一方、LINEは、もともと決済サービスをPayPayがリリースするまでに提供していましたが、圧倒的なユーザー数を有していたこともあり、LINEは、外から静観している様子でした。
【追記】2019/11/15各社スマホ決済の利用者数
LINEペイ・・・約3690万人
PayPay・・・約1920万人
メルペイ・・・約500万人
利用者数は、LINEペイが圧倒しています。メルペイの利用者数も増加していますが、PayPayの4分の1程度になっています。メルペイもタレントを起用してテレビCMも放映していたことを踏まえると、いかにPayPayのプロモーション能力、営業力が高いかが分かります。仮に、経営統合が実現し、スマホ決済が一元化されれば、ソフトバンクの国内総取りに一気に近づきます。
プラットフォームビジネスは下記記事でも解説しています。
>>>プラットフォームビジネスの入門・基礎知識【図解・法的考察あり】 – Nomad Venture Library
3社のサービスのコモディティ化を予想していた
メルカリが、PayPayに宣戦布告をし、バチバチに対抗してきたため、筆者は、PayPay、メルカリ、LINEの3社のサービスがコモディティ化することを予想していました。まず、メルカリの宣戦布告に対抗して、PayPayが、フリマ事業に乗り出すことは間違いないと思っていました。PayPayには、ヤフーとソフトバンクという後ろ盾があり、強力な資金力を有していたため、後続でフリマ事業に乗り出すことも可能だったからです。
通常、すでにネットワーク化されたプラットフォームに、参入することはハードルが高いです。なぜなら、プラットフォームの提供は、差別化が難しいからです。特に、既存のフリマアプリに対して、それまでにない価値を付加して提供することは難しいです。フリマアプリのユーザーのニーズは、相手方ユーザーを見つけてマッチングすることが大部分であり、それ以上は無いからです。しかし、潤沢な資金があれば、話は別です。経済的利益の付与は、それだけで既存プラットフォーマーにはない付加価値となるからです。
顧客を奪取するだけの資金力がPayPayにはあったので、フリマ事業に乗り出したことは、プラットフォームビジネスの特徴からすれば自然な現象とも言えると思います。
フリマ事業を始めると、チャット機能も不可欠となる
そして、フリマ事業を始めると、ユーザー間でのコミュニケーションが不可欠となるため、チャット機能が実装されることになります。そうなると、次は、LINEの無料通信アプリとやや被ってくることになります。そして、自己のネットワークを脅かす2社が登場したことは、LINEにとって嬉しいことではありませんから、今度は、LINEが2社に対抗して、フリマ事業に参入するのでは?その結果、3社のサービスがコモディティ化する。そして、3社間の全面戦争になる。その末路は、一社の総取りとなる。これが、私が予想していたシナリオでした。
PayPayのスーパーアプリ化を発表
ソフトバンク傘下であるPayPayは、9月の記者会見でPayPayアプリの「スーパーアプリ」化の構想を発表していました。その際に中山社長は、PayPayは単なる決済アプリでなく、多機能のスーパーアプリを目指す。日常に必要な機能を網羅してスマホの上で実現、チームソフトバンクの新しいプラットフォームアプリになる。金融、オフライン、公共料金・税金、O2O、ソーシャル、P2P。すべてスマホのPayPayに実装して提供する。それがPayPayの未来」と語っていました。スーパーアプリ化の構想を知った時に感じたのは、しっかりプラットフォーム戦争をやっているなと。これが、プラットフォームビジネスだなということでした。
また、これで、圧倒的に、メルカリとLINEを引き離すなと思い、この三つ巴の戦いは、PayPayの勝利で、幕を閉じるのだろうと思いました。
全面戦争手前で2社間で同盟
しかし、突然の今回の報道でこの3社の関係は、大きく変わりそうです。個人的には、上述してきたように、「勝者は、PayPayのみ」となり、将来的に巨額の利益を手にするのは、PayPayになるだろうと予想していました。しかし、まさか2社間での経営統合。
しかし、タイミング的にはありえた話だったと思います。PayPayが、フリマサービスをリリースしたのは、10月上旬で一ヶ月ちょっと前でした。まだ、フリマでの顧客獲得が熾烈化する前であり、かつLINEの無料通信サービスとの競合が明白になる前だったからです。LINEとしては、巨額な資金力を有するPayPayが競合する無料通信サービスをリリースを防げたことになりますし、PayPayもラインのネットワークをうまく使えることになるでしょう。
さらに、PayPayとLINEペイが一元化されることも考えられるところです。そうなると、スマホ決済事業をソフトバンクが牛耳ることになります。ただ、この経営統合、そもそも独禁法上の制約を受けないのか少し疑問です。この点は、また後日考察したいと思います。
ともかく、2社の経営統合が本当に実現したら、メルカリは圧倒的に不利な立場になるのは確実です。
【追記】2019/11/15株価の動き
2019年11月14日にソフトバンク、ヤフー、LINEが経営統合を含めて協議をしている事実を認めました。その影響で、同日ZホールディングスとLINEの株価は急騰しました。一方、競合の楽天は、一時6%安、メルカリも一時3%安を記録しました。明暗が分かれました。楽天の動向も当ブログで注視していこうと思います。
困ったのはメルカリ
困ったのは、メルカリです。今回の報道で、ヤフーとLINEに注目が集まっていますが、次に注目されるのは、メルカリの動向です。ヤフーとLINEの経営統合で、メルカリは圧倒的に不利になったといえます。メイン事業であったフリマアプリも、どんどんシェアが減っていくのは確実でしょうし。また、メルペイのマネタイズも、難しいでしょう。PayPayには、手数料ビジネスをやるつもりがないらしく、メルカリが、手数料を取り出すと、決済サービスのシェアも落とすことになります。また、メルカリが、PayPayのようなスーパーアプリ化を目指せすのも資金的にも厳しいように思われます。いずれにしろ、手数料以外のマネタイズが見つからなければ、メルペイ、the endな気がします。
メルカリの手腕が試される時が来た
とはいえ、メルカリは、日本随一のユニコーン企業として、圧倒的成長を続けてきました。また、フリマサービスのCtoCビジネスでは、天下を取り、莫大な顧客情報を取得している。この莫大な顧客情報とフリマの巨大ネットワークを駆使して、新たな事業を展開するのではないでしょうか。また、米国でのフリマ事業などメルカリの事業は、国内にとどまっていません。メルカリは、本当に画期的でした。メルカリの巻き返しがここから始まるでしょう。
当ブログでも、メルカリの動向に注視していきたいと思います。
※本記事は、上記報道を受けて、思いつくままに書き連ねたものです。そのため、事実に反する部分もあるかもしれませんので、事実確認は、公式サイトからお願いします。
【追記】2019/11/18
ヤフーとラインの経営統合に関する基本合意が公表された同日、メルカリは、新サービスを公表しました。メルカリで出品された商品を海外で購入が出来るサービスです。ユーザーとしては、買い手が増えるため、より不用品の売却が簡単になります。さすがメルカリですね。このタイミングを意図したわけではないと思いますが、恐ることなくファイティングポーズを取っています。
フリマ事業における一位のポジションをソフトバンクに明け渡すつもりはないようです。このテンポの良さは、ベンチャー企業ならではでしょうか。毎回驚かされます。
他方、このビジネスモデルは、プラットフォームビジネスにおける当事者型と言われるものです。当事者型のプラットフォームの場合、事業者の法的リスクは増加します。国内でのフリマは、単に売買の場所を提供する仲介型なので、商品の品質に関してメルカリが責任を負うことは基本的にありませんでした。今回発表されたサービスでは、一度事業者が買い取って、海外のユーザーに売却するスタイルのため、事業者が当事者として売買契約に関与することになるため、法律上のリスクは増えることになります。
このサービス、どの程度浸透していくことになるのでしょうか。メルカリの逆襲に目が離せません。
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